BioBEAT
Breakthrough Stories
 先端的研究レポート
Hot Paper
 最新研究論文概要
Technology Update
 研究最新情報
User's Article
 ユーザー研究レポート
On Line Lecture
 「遺伝子系統樹入門」
BioBEAT

星状膠細胞の遺伝子の変異が中枢神経系疾患に関与

星状膠細胞のタンパク質をコードする遺伝子の変異が中枢神経系の致命的な病気に関与する

by Michael D. O’Neill and Naomi Ruff, Ph.D.

【SUMMARY】

アレクサンダー病という死にいたる中枢神経系の病気がある。この病気の大部分が、中枢神経系の主要な神経膠(しんけいこう=グリア)細胞の一つ、星状膠細胞(アストログリア)の主なコンポーネントの細胞骨格たんぱく質をコードする遺伝子に新たに突然変異が起きることで発症する遺伝子病であることが、患者のDNA配列を分析して分かった。

星状膠細胞
(Doug Feinstein撮影、Michael Brenner博士の厚意による)

原因となるたんぱく質は、中間径フィラメントたんぱく質であるグリア繊維酸性たんぱく質(GFAP)だ。このたんぱく質の遺伝子が突然変異することにより、星状膠細胞の中で異常なGFAPが作られ、それにともなってGFAPが細胞内で凝集する。このGFAPの凝集と、中枢神経系に広くみられる髄鞘脱落が、アレクサンダー病の病理学的な特徴だ。
アレクサンダー病はきわめてまれな病気だが、現代の生物学と遺伝病研究の主流と関係が深い。このため、今回の新しい成果は、これまで不可解だったまれな病気の原因を説明するだけでなく、生物学の主流を占める重要な分野や、たくさんの人がかかる病気の理解を進める可能性がある。

そうした分野には、中間径フィラメントたんぱく質の欠陥が原因で起こるさまざまな病気(単純性先天性表皮水疱症、エメリー-ドライフス筋ジストロフィーなど)の遺伝学、白質ジストロフィーという脳の白質の病気(カナバン病や副腎脳白質ジストロフィーなど)の病理学、細胞の中に異常なたんぱく質の凝集が起こる病気(アルツハイマー病、パーキンソン病など)のメカニズムが含まれる。

さらに、脳の損傷に反応して星状膠細胞の中のGFAPの発現が増加することが分かっている。この理由は不明だが、GFAPは脳の損傷に対する反応にかかわっているかもしれないことが示唆されていた。今回の成果は、脳がどのように損傷に反応するかの解明にも役立つかもしれない。
GFAPの突然変異とアレクサンダー病の関連の報告(1)は、Nature Genetics(ネイチャー遺伝学)2001年1月号に発表された。著者はアラバマ大学バーミングハム校のMichael Brenner博士と、ウィスコンシン大学マディソン校のAlbee Messing博士らだ。DNAの解読は、アプライド・バイオシステムズ社製の自動化DNAシーケンサで行われ、GFAP突然変異の発見とその特徴を調べるのに重要な役割を果たした。


Michael Brenner博士


Albee Messing博士

【SUMMARY】

かぎとなる発見
研究チームは研究試料を分析し、アレクサンダー病の患者11人のうち10人で、GFAP遺伝子のコード領域の突然変異が病気に関係していることを示した。さらに2人の患者の試料の分析でも、GFAP遺伝子のコード領域に病気に関連する突然変異があることが示された。

突然変異は、マウス、ネズミ、ヒトのGFAPの間で高度に保存されている領域で起きていた。この特定領域は、フィラメントの組み立て、フィラメント間の会合、細胞中のさまざまなたんぱく質とフィラメントとの相互作用に重要な役割を果たしていると考えられる。

すべての突然変異はアルギニン残基のコドンで起きていた。アルギニンのコドンは突然変異のホットスポットであることが分かっている。突然変異が陽性の人からの試料を検査したところ、彼らはその突然変異に関してヘテロ接合だということが分かった。つまり、彼らはGFAP遺伝子に関して、正常な対立遺伝子1つと突然変異した対立遺伝子1つを持っているということだ。Brenner博士らによると、この突然変異は優性の機能獲得性突然変異(dominant gain-of-function mutations)らしく、星状膠細胞の中でGFAPと、関係する熱ショック・シャペロンたんぱく質の凝集を引き起こす。

多数の患者の両親のDNA試料も分析されたが、GFAPが突然変異している証拠は見つからなかった。これは、突然変異は病気になった子供に新たに起こったことを意味している。

Brenner博士たちの発見によってアレクサンダー病が星状膠細胞の遺伝子病であることが分かった。星状膠細胞が直接原因となる遺伝子病が見つかったのは、これが初めてだと博士たちは述べている。しかし、彼らの成果は、ある種のアレクサンダー病の原因が、ほかの遺伝子の欠陥かもしれない可能性を除外してはいないと彼らは指摘している。

アレクサンダー病と白質ジストロフィー
アレクサンダー病は、白質ジストロフィーとよばれるまれな病気の一群に属している。白質ジストロフィーには、たとえば、カナバン病や、映画「ロレンツォのオイル」のテーマになった副腎脳白質ジストロフィーであり、元プロアメリカンフットボール選手でクオーターバックだったJim Kellyの幼い息子がかかったクラビエ病(Jim Kellyは息子の名前Hunterをとって「Hunterの希望」という支援組織を設立した)、ツェルウェガー症候群、レフスム病、コケーン症候群などがある。
白質ジストロフィーは、ミエリン鞘(髄鞘)の発達と維持あるいはそのいずれかの異常が特徴だ。ミエリン鞘は神経の軸索を取り囲んで覆い、電気インパルスの伝達速度をミエリン鞘のない軸索よりも速くする。脳とせき髄の白質の白い色はミエリンのせいだ。「白質ジストロフィー」(leukodystrophy)という言葉は、ギリシャ語のleukos(白い)とdys(悪い)とtrophe(食物・栄養)から来ている。ミエリンは、分化した神経膠細胞(中枢神経系の稀突起膠細胞=オリゴデンドログリアと末梢神経系のシュワン細胞)によって作られる。
たいていの白質ジストロフィーは遺伝子病で、通常、常染色体性劣性あるいはX連鎖劣性で遺伝する。この病気は進行性でほとんど例外なく死にいたる。白質ジストロフィーは一般に子供のときに発症する。多くの白質ジストロフィーが、ミエリンの形成と維持、あるいはそのいずれかに関連する代謝にかかわるたんぱく質をコードする遺伝子の欠陥を受け継ぐことによって起こる。

アレクサンダー病とローゼンタール線維
アレクサンダー病は特にまれな白質ジストロフィーで、通常は幼児に発症する。中枢神経系の髄鞘形成の進行性機能不全と、星状膠細胞の中のローゼンタール線維の蓄積が、この病気の特徴だ。ローゼンタール線維は細胞質封入体で、その中に、小さな熱ショック/シャペロンたんぱく質hsp27とα-B-クリスタリンとともに異常なGFAPの凝集体が見られる。ローゼンタール線維は、ほかの病気(星状膠細胞腫、視神経膠腫、慢性反応性神経膠症)でもみられるが、アレクサンダー病での特に顕著な特徴と言われる。

星状膠細胞は、中枢神経系にある、星の形をした神経膠細胞であり、神経系の中でさまざまな機能を果たす非ニューロン細胞だ。この神経膠(glial)という言葉は、「糊」というギリシャ語の「glia」「golia」から来ていて、これは神経膠細胞が最初はニューロンの支持細胞という単純な働きをしていると考えられていたために名付けられた。星状膠細胞に加えて、前述の稀突起膠細胞とシュワン細胞など、いくつかの別のタイプの神経膠細胞がある。GFAPは通常は主に星状膠細胞の中で見つかり、細胞の構造を維持する役目をしていると考えられている。

星状膠細胞は長い間、単にニューロンを支持する役割をすると考えられてきた。しかし、最近の研究結果から、星状膠細胞はシナプスでのシグナルの調節に関わり、もしかすると、シナプスがどこに形成されるかの調節にさえ関係しているかもしれないことが示唆されている(参考文献234を参照)。

アレクサンダー病の発生率と特徴
アレクサンダー病の発生は一般的には散発的だ。つまり、アレクサンダー病はほとんどいつも、この病気の患者が出たことがなかった家系に突然現れる。アレクサンダー病の原因は分かっていない。この病気の遺伝学的な原因は(特に、ほかの多くの白質ジストロフィーのすでに分かっている遺伝学的本質にもとづいて)推測されてはいたが、これまで確立されてはいなかった。この病気は1949年、W.S.Alexander博士によって初めて報告された。

アレクサンダー病の幼児期の形態は、白質脳症(脳の髄鞘の喪失)と発作、頭の拡大(巨大頭がい)、精神運動発達遅延が特徴だ。発症は通常、生後2年間のうちで、通常、10歳までに死亡する。アレクサンダー病の少年期と成人の形態は、運動異常(運動失調と痙性=けいせい)と、幼児期形態よりも病気の進行が遅いことが特徴だ。

少年期と成人の形態では、幼児期の形態に見られるのと同様に中枢神経系の広範囲でかなりのローゼンタール線維が見られるが、髄鞘脱落は少ない。髄鞘脱落が少ないことが、少年期と成人の形態で病気の進行が遅いことと関係していると考えられている。

ローゼンタール線維と髄鞘脱落
ローゼンタール線維が、髄鞘脱落が起こる領域と異なる場所で現れることは、注目に値する。このため、アレクサンダー病のこの2つの顕著な特徴(ローゼンタール線維と髄鞘脱落)が、この病気の独立した側面かもしれないと主張する人もいた。

Messing博士は、「今、私たちが直面している大きな課題の一つは、星状膠細胞の機能不全が、星状膠細胞と稀突起膠細胞の相互作用にどのように干渉し、ミエリンの異常を惹き起こすかを理解することだ」と話した。

GFAPは中間径フィラメントたんぱく質
GFAPは通常、星状膠細胞の中で見つかる中間径フィラメントのたんぱく質だ。真核細胞には、3つの重要な細胞骨格繊維グループあり、細胞の運動性、細胞の形の生成と維持、構造の健全性に関わり、中間径フィラメントはその1つである。

3つの細胞骨格繊維グループは、微小繊維(直径7nm=ナノメートル=から9nm)、中間径フィラメント(直径10nm)、微小管(直径24nm)だ。中間径フィラメントの機能は、主として構造に関わると考えられている。このフィラメトは細胞を補強し、細胞の組織化を助ける。微小繊維と微小管は、細胞の運動性と細胞の形の決定にかかわっている。

中間径フィラメントは、いくつかのたんぱく質サブユニットでできており、これらのサブユニットは、アミノ酸配列やDNA配列の類似性にもとづいて6つのタイプに分類されている。1型と2型の中間径フィラメントたんぱく質は、皮膚、消化器、髪、爪の上皮層にある、酸性(1型)または塩基性(2型)のケラチンであり、3型の中間径フィラメントたんぱく質には、デスミン(筋肉に存在)、ビメンチン(間葉に存在)、ペリフェリン(末梢神経系と中枢神経系に存在)、GFAP(成熟したニューロンに存在)がある。4型の中間径フィラメントたんぱく質は、ニューロフィラメントNF-L、NF-M、NF-H(成熟したニューロンに存在)、インターネキシン(発達中の中枢神経系組織に存在)がある。標準的でない4型の中間径フィラメントたんぱく質には、フィレンシンとファカニン(目の水晶体に存在)がある。

前述した中間径フィラメントたんぱく質の5つのタイプはすべて、細胞質に見られる。中間径フィラメントの6番目のグループである、5型の中間径フィラメンたんぱく質は、核でのみ見つかるラミンである。細胞質の中間径フィラメントがひも状のフィラメントを作るのと異なり、ラミンは2次元の網状の構造を作る。

中間径フィラメントの役割
中間径フィラメントは、人体のあらゆるところで、さまざまな重要な構造的役割を果たす。たとえば、デスミンフィラメントは筋肉の収縮においてサルコメアを安定させる。一方、ラミンフィラメントは、核膜を支持する役目を果たす。中間径フィラメントは、力学的なストレスにさらされている細胞(たとえば、筋肉細胞や上皮細胞、神経細胞の軸索)の細胞質の中で特に目立つ。

中間径フィラメントは、伸びて局所的に加えられた力を分散し、細胞とその膜を力学的な変形で壊れないようにしている。このような原理は、強化コンクリートやほかの複合材料の製造にも使われている。こうした材料では、鋼鉄の棒や、ガラス、炭素繊維など、張力に耐える線形の素材が母材の中に埋め込まれている*。

中間径フィラメントの構
中間径フィラメントは、一般には次のような方法で、たんぱく質サブユニットから構成される。まず、2つのサブユニットがコイルドコイルの形にからみあい、二量体を作る。それから、2つのコイルドコイル状の二量体が、非共有結合で並んで結合し、四量体を作る。この四量体が互いに縦につながったり、横に並んだりして、これも非共有結合で結合し、最終的に直径10nmの中間径フィラメントを作り上げる*。

中間径フィラメントのたんぱく質サブユニットのかぎとなる構造的特徴は、中央部にある長い棒状のロッドドメイン、アミノ末端の球状のヘッドドメイン、カルボキシル末端の球状のテールドメインだ。いろいろな中間径フィラメントたんぱく質があるが、この中央のロッドドメインは、その大きさとアミノ酸配列がすべて似ている。すなわち、中間径フィラメントが同じになると常に同じ直径と内部構造のフィラメントを作られる。一方、ヘッドドメインとテールドメインは、主として細胞質のほかのコンポーネントとの相互作用にかかわっており、中間径フィラメントたんぱく質の種類によって大きさとアミノ酸配列が大きく変化する*。
(*の内容は参考文献56からの抜粋である。)

中間径フィラメント遺伝子の突然変異に関係する病気
近年、たくさんの遺伝子病が、異なる中間径たんぱく質遺伝子の突然変異と関係していることが示された。これらの病気には、深刻な皮膚の水ぶくれを起こす、Dowling-Meara型単純性先天性表皮水疱症(D-M EBS)が含まれる。突然変異したケラチン14遺伝子を発現する(末端部が切断されたケラチン14たんぱく質を作る)ように遺伝子操作されたマウスが、人間のD-M EBSときわめて似通った表現型を示すことが分かり、その後、D-M EBSの分子的欠陥が解明された。この結果から、研究者たちは、ヒトのケラチン14遺伝子の中にD-M EBSを引き起こす突然変異を探し、この病気の分子的基礎が初めて確立された。

続いて、これまでは原因が分からなかったほかのヒトの病気が、ケラチン遺伝子の突然変異と関係していた。さらに、ほかの型の中間径フィラメントたんぱく質も病気と関係していた。これらの病気には、特殊な形態の心筋症、エメリー-ドライフス筋ジストロフィー、Dunnigan型家族性部分的リポジストロフィー(脂肪異栄養症)が含まれる。心筋症はデスミンの突然変異と、後の2つはラミンの突然変異と関係している。

これらのヒトの中間径フィラメントに関係する病気は、ほとんど常染色体性優性遺伝し、病気は中間径フィラメント突然変異の優性ネガティブな効果から起こるようだ。つまり、対立遺伝子のうち1つだけが、正常なたんぱく質の機能の喪失を引き起こし、この機能喪失が病気と関係する。

突然変異は高度に保存された領域に起こる
病気の原因となる中間径フィラメントの突然変異は一般に、このたんぱく質の、マウス、ネズミ、ヒトの間で高度に保存されてきた領域に起こることが分かった。これらの領域は、フィラメントの組み立て、フィラメント間の会合、かぎになるフィラメント関連たんぱく質とフィラメントとの相互作用において重要だと予測されている。病気を起こす突然変異は、しばしば、アルギニン残基のコドンに起こる。

中間径フィラメントに関連する病気の発見は増えつつあり、その遺伝学的基礎の解明は比較的最近になって進んだ。このため、研究者たちは、ほかの中間径フィラメント遺伝子の突然変異と関連する病気も見つかるだろうと予測した。アレクサンダー病はちょうど、そのような中間径フィラメントに関連する病気の一つらしい。

ローゼンタール線維とマウスの研究はGFAPへの関連を示唆する
アレクサンダー病の特徴がローゼンタール線維であることから、この病気の原因はGFAPが中心となるかもしれないと以前から予測されていた。Brenner博士、Messing博士らの最近の研究は、トランスジェニックマウスの星状膠細胞で、ヒトのGFAPが過剰に発現すると致命的であり、その際、ヒトのローゼンタール線維と見分けがつかない封入体が生じることを示し、この予測を支持している(7)。

これは、実はアレクサンダー病にとっては思いがけない発見だった。なぜなら、Brenner博士とMessing博士のグループは、ほかの症状、すなわち反応性神経膠症を研究するためにトランスジェニックマウスを使っていたからだ。

この思いがけない結果は、GFAPがまず変質することが、人間のアレクサンダー病の原因なのかもしれないことを暗示した。このため、彼らは組織学的にアレクサンダー病と確認された患者の組織から、DNA配列を解析することによってGFAP遺伝子の突然変異を探す研究を開始した。

アレクサンダー病患者のDNAの分析
この研究では、まず、生検あるいは剖検の組織学的検査でアレクサンダー病と確認された11人の患者の組織から、ゲノムDNAサンプルが集められた。Brenner博士たちは「これらの患者のほとんどは、子供時代の初期に典型的な症状が出始め、10歳までに死亡した」という。しかし、1人の患者ははっきりと異なった経過を示し、病気の発症は10歳のときで、闘病は38年間にわたり、48歳で死亡した。

対照群として、アレクサンダー病でない白質ジストロフィーの患者2人と、神経病ではない53人のDNAサンプルも分析された。11人のアレクサンダー病患者と、アレクサンダー病ではない白質ジストロフィーの2人の患者サンプルについては、DNAの配列決定が行われた。53人の対照群の人たちからのサンプルは、制限酵素消化により分析された。

DNA配列決定のために、GFAP遺伝子のコード領域と隣接するイントロン領域の一部がPCR増幅され、精製後、アプライド・バイオシステムズ社のABI PRISM® 377もしくは、373DNAシーケンサーで解析された。

GFAPコード領域の突然変
11人のアレクサンダー病患者のサンプルDNAの分析から、11人のうち10人は、新しいヘテロ接合の突然変異がGFAP遺伝子のコード領域にあることが明らかになった。突然変異が起こったアルギニン残基は4カ所あり、いずれも非保存的な変化(つまり、明確に性質が異なるアミノ酸への変化)を示唆した。対照群の人たちには、どの突然変異も見つからなかった。突然変異のうち5つは、同じアルギニン残基(R239)に起こり、このうち4つはいずれも同じ1塩基対を変化(729C->T)させ、アルギニンをシステインに置換するものだった。

ほかの2つの突然変異は、別のアルギニン残基(R416)に起こり、先ほどとは別のコドンで同じ1塩基対を変化(1260C->T)させて、アルギニンをトリプトファンに置換するものだった。ほかの2つの突然変異(249C->Tと250G->A)は、3番目のアルギニン残基(R79)に起こり、アルギニンをシステインとヒスチジンに置き換えた。最後の突然変異(787G->C)は、4番目のアルギニン残基(R258)に起こり、アルギニンをプロリンに置き換えた。

突然変異は新たに起こった
5人の患者の両親のDNAサンプルを制限酵素で消化した結果は、患者である子供に見つかった突然変異を、その両親はだれも持っていないことを示した。これは、病気の原因となった突然変異は、子供たちに新たに起こったことを示唆していた。

研究者たちはその後、アレクサンダー病であることが確認された、4人の追加の患者のDNAサンプルを分析した。これらのケースでは、すでに見つかった突然変異を探すので制限酵素消化により分析が行われた。4人のうち2人のサンプルで、突然変異があるという結果が出た。これらの突然変異は、ABI PRISM® DNAシーケンサーをによるDNA解析により確認された。

この突然変異陽性の患者は2人とも、同じアルギニン残基(R79)に起こった突然変異を持っていた。1つの突然変異は、システインへの置き換え、もう1つの突然変異はヒスチジンへの置き換えだった。そして2人とも、その突然変異に関してはヘテロ接合だった。2人の両親のDNA試料の制限酵素消化による分析結果は、両親はこの突然変異を持っていないことを示した。

結局、14人(7組)の両親のDNAが試験されたが、子供に見つかった非保存的突然変異をだれも持っていなかった。「これは病理学的に確かめられたアレクサンダー病のほとんどの症例は、GFAP遺伝子の新しい突然変異に関係していることを示している」とBrenner博士らは述べた。

アルギニン残基のコドンは突然変異のホットスポット
Brenner博士たちは「病気に関係しているGFAPの突然変異は、突然変異のホットスポットとして知られているアルギニン残基のコドンに起こった」と述べている。この突然変異しやすい傾向は、6つのアルギニンのコドンのうち4つが突然変異しやすいCpG配列を含むためだと考えられる。シトシンはしばしばメチル化され、メチル化されたシトシンは、特にグアニンの隣にあるとき、脱アミノ化しやすい。脱アミノ反応は、メチル化されたシトシンをチミンに変える。これは結局、CからTへの点突然変異となる。

機能獲得性突然変異
1つのアミノ酸、アルギニンの置換が、ヘテロ接合でアレクサンダー病の原因となる。GFAPの突然変異があるアレクサンダー病の患者も、対応する正常なGFAP対立遺伝子を持っている。Brenner博士らは「この事実と、完全にGFAPを欠くマウス(いわゆるGfapヌルマウス, Gfap-null mice)が、アレクサンダー病と似ていない、かすかな表現型しか持たないという観察から、GFAPの突然変異は、優性機能獲得性(dominant gain-of-function manner)の形で効果を及ぼすことを示している」と話した。これは、多くの病気にかかわっている、ほかの中間径フィラメント遺伝子の突然変異の優性ネガティブ(機能喪失性, loss-of-function)メカニズムと対照的だ。

GFAPの相互作用における特性の変化が鍵となる
GFAP突然変異とアレクサンダー病に関する記事の解説(8)の中で、ダラム大学(英国・ダラム)の教授で細胞骨格の専門家Roy Quinlan博士は「Gfapヌルマウスの表現型がかすかなのは、星状膠細胞の中に存在するほかの中間径フィラメント、ネスチンやビメンチンがGFAPがないことを補っているからかもしれない」と述べた。

Quinlan博士は「GFAPに突然変異のある人間と、GFAPを過剰に発現しているマウスの両方で、GFAP中間径フィラメントは形成されるものの、その存在がどういうわけか、細胞骨格形成の混乱を通じて細胞の機能に基本的な変化を誘発する」と指摘する。彼は「マウスでのGFAPの過剰な発現と、人間におけるGFAPの突然変異を結びつけるものは何か」という疑問を提起した。

彼は「突然変異と過剰な発現は、どちらもGFAPがほかの細胞骨格要素と相互作用する性質を変化させるのではないか」と提案している。彼は、GFAP、ビメンチン、デスミン、ペリフェリンの間で保存された共通配列に起こる、GFAPの突然変異(R416W)を例に挙げた。「この突然変異は、GFAPとほかの細胞骨格タンパク質との相互作用を変えるかもしれない」とQuinlan博士は語った。

彼は「GFAPの相互作用特性は、ビメンチンがないと変化することが分かっている」とつけ加えた。もし、GFAPが過剰に発現すれば、ビメンチンがない細胞内の局所にGFAPが存在するという状況とみなすことができるかもしれない。そして、細胞内の状況に応じて、このたんぱく質は異なる相互作用特性を見せるのかもしれない。

Quinlan博士はさらに「中間径フィラメントには、プロテインキナーゼ、ホスフォターゼ、たんぱく質シャペロン、そのほかの構造たんぱく質など、多くの細胞内たんぱく質との結合部位がある。だから、GFAPの突然変異は、細胞骨格全体のほか、シグナルトランスダクションや細胞のストレス応答も変化させるかもしれない」と話した。

変異遺伝子は病気の経過に影響するかもしれない
Quinlan博士は「R79H突然変異のある患者2(10歳で発症し、48歳で死亡)と、R79C突然変異のある患者1(生後3カ月で発症、14歳で死亡)の寿命が約30年も違うことから、変異遺伝子の存在とその影響が考えられる」とも話した。博士は「そのような変異遺伝子の候補はビメンチン遺伝子で、追加の候補もすぐに明らかになるだろう」と指摘した。

将来の研究の方向
今回の発見は、アレクサンダー病の理解を大きく前進させた。そして、長らく不可解だった病気の分子的メカニズムを解明する基礎となるかもしれない。この成果は、このまれな病気と関係する生物学の幅広く重要な領域に、新しい洞察の基礎も与えてれるかもしれない。

Brenner博士らは「今回の結果は、ローゼンタール線維が顕著な特徴である成人発症疾患の候補遺伝子として、GFAP遺伝子が研究されるべきだということを示している。ただし、今回の結果は、ほかの遺伝子の欠陥が、アレクサンダー病のいくらかのケースの原因である可能性を除外してはいない」と述べた。

Messing博士らが今、始めている取り組みの一つは、人間の病気のより正確なモデルとなるマウスを作ることだ。改良されたモデル動物があれば、病気のメカニズムや、治療の有効性を決めるための試験によりさらに多くのことが得られるだろう。

Nature Geneticsに掲載された論文の著者は、Brenner博士とMessing博士のほか、アルバート・アインシュタイン医科大学(米・ニューヨーク)のAnne B. Johnson博士、フランス国立保健医学研究所(INSERM、フランス・クレルモン-フェラン)のOdile oespflung-Tanguy博士、聖ヴァンサン・ド・ポール病院(フランス・パリ)のDiana Rodriguez博士、コロンビア大学内科医・外科医学部(ニューヨーク)のJames E. Goldman博士だ。

References
  1. Brenner, M., Johnson, A.B., Boespflug-Tanguy, O., Rodriguez, D., Goldman, J.E., and Messing, A., "Mutations in GFAP, Encoding Glial Fibrillary Acidic Protein, Are Associated with Alexander Disease," Nature Genetics 27(1): 117-120 (January 2001). [Medline abstract].

  • Sharma, G. and Vijayaraghavan, S., "Nicotinic Cholinergic Signaling in Hippocampal Astrocytes Involves Calcium-Induced Calcium Release from Intracellular Stores," PNAS 98(7): 4148-4153 (March 27, 2001). [Medline abstract].
  • Temburni, M. and Jacob, M.H., "New Functions for Glia in the Brain," PNAS 98(7): 3631-3632 (March 27, 2001). [Medline abstract].
  • Ullian, E.M., Sapperstein, S.K., Christopherson, K.S., and Barres, B.A., "Control of Synapse Number by Glia," Science 291: 657-661 (January 26, 2001). [Medline abstract].
  • Alberts, B., Bray, D., Johnson, A., Lewis, J., Walter, P., Roberts, K., and Raff. M., "Essentials of Cell Biology: An Introduction to the Molecular Biology of the Cell," Garland Publishing, Inc., New York, NY (1997).
  • Alberts, B., Bray, D., Lewis, J., Raff. M., Roberts, K., and Watson, J.D., "Molecular Biology of the Cell," 3rd Edition. Garland Publishing, Inc., New York, NY (1994).
  • Messing, A., Head, M.W., Galles, K., Galbreath, E.J., Goldman, J.E., and Brenner, M., "Fatal Encephalopathy with Astrocyte Inclusions in GFAP Transgenic Mice," American J. Pathology 152(2): 391-398 (February 1998). [Medline abstract].
  • Quinlan, R., "Cytoskeletal Catastrophe Causes Brain Degeneration," Nature Genetics 27(1): 10-11 (January 2001). [Medline abstract].