子供たちの命を奪う早老症候群の遺伝子が同定された

Michael D. O'Neill

Francis S. Collins(M.D. & Ph.D.)の率いる研究チームによる今回の発見は、人間の老化に関する研究に非常に大きな影響を与え、早老症候群で苦しむ子供たちに希望を与える可能性がある。Collins博士たちの研究成果を報告した論文は、Nature(1)に掲載された。この論文によれば、1番染色体上にあるラミンA(LMNA)遺伝子のDNA塩基配列の1つが変異すると、ハッチンソン・ギルフォード早老症候群(HGPS)を発症する可能性がある。HGPSは極めて深刻な疾患であり、重症の早期老化症状が数多く現われ、この疾患にかかった子供たちは、通常、大人になる前に心臓病や脳卒中で亡くなる。

この画期的な研究成果は、人間の正常な老化過程の解明にも大きな影響を与える可能性がある。今回の研究にアプライドバイオシステムズの技術が重要な役割を果たした。Collins博士は、米国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)の所長であり、先ごろ終了した「ヒトゲノム・プロジェクト」という公的プロジェクトの責任者でもあった。


写真1
HGPS遺伝子の同定に関するプレスカンファレンスにおける、John Tacket(15才)と彼の両親、そしてDr. Francis Collins(少し離れて右)。Johnは、HGPSで現在、最も長生きしている少年であり、早老症研究財団のYouth Ambassadorとしてプレスカンファレンスで話した。
(Photo by Maggie Bartlett, NHGRI).

■科学の進歩と人間の力の注目すべきコンビネーション

HGPS患者における突然変異遺伝子の同定を目指して集中的な研究が始まってから今回の成果が得られるまでに1年も経たなかった。これは、まさに科学技術を結集し、強力な人間の力と融合させたことによる注目すべき成果と言える。

今回の研究チームには、HGPSの子を持つ母親が含まれている。研究者たちは、ほんの2、3年前までは利用できなかったDNAデータや数々の研究ツールや手法を用い、子供に対する親の愛情という人間の最も強い力に絶えず後押しされて研究を進めた。その結果、過去1世紀以上にわたって医師や研究者を困惑させてきたHGPSの分子的基盤をこんなにも早く解明できたのだった。

この画期的な研究において、ABI PRISM® 3100 Genetic Analyzer、ABI PRISM® 3700 DNA Analyzer、ABI PRISM® GeneScan® 解析ソフトウェア、ABI PRISM® Genotyper® ソフトウェアやABI PRISM® BigDye® ターミネーター試薬などアプライドバイオシステムズの技術が極めて重要な役割を果たした。

■HGPSというジグソーパズルにおける1ピース

「この遺伝子の発見は、早老症という悲劇のパズルを解くための最初の1ピースという意味合いがある。この情報がなかったため、医学関係者は、患者の子供たちと家族を救おうと思っても、どこに照準を合わせて研究を進めてよいのかがわからず、途方にくれていたといえる。ようやく研究の足がかりが得られたのだ」とCollins博士は述べている(2)。

■HGPSの原因となる突然変異によって核膜が影響を受ける可能性が高い

今回特定された突然変異が起こると、正常よりも短いラミンAタンパク質が産生される。ラミンAタンパク質とは、核膜内膜と細胞核内部との間にあって、線維状の網目構造を形成している核ラミナの重要な構成要素だ。核ラミナは、核膜の内膜外膜核膜孔複合体と共に核膜を形成し、細胞核と細胞質を分離している。

核ラミナは、これまで長い間、細胞核において主に構造的な役割を果たすと考えられていた。今回の研究成果によって、これ以外にも、細胞核と細胞質の間での分子の輸送やシグナル伝達の場面やクロマチンのアンカーポイントを指定して核の高次構造を決定する場面でも重要な役割を果たし、その他の機能も考えられるようになった。

ラミンAタンパク質は、核膜のタンパク質複合体の一部を構成していることが知られていることから、LMNA遺伝子の突然変異によって産生された短いタンパク質が、この複合体を阻害し、あるいは複合体の形成を阻害した結果、HGPSが起きるとCollins博士たちは考えた。

■人間の老化にとっての意義

「私たちの研究による影響は、早老症にとどまらず、人間ひとりひとりに及ぶかもしれない。この早期老化モデルの分子的基盤について私たちが学んだことによって、人間が年を重ねるにつれて体内で起こる現象について解明が進められるかもしれない」とCollins博士は付言する。

事実、彼の研究グループでは、特に安定した形態のタンパク質/遺伝子が長寿と関係があるかもしれないという考えのもとに、長寿者のLMNA遺伝子を既に調べ始めていることをCollins博士は明らかにしている。「私たちは、100歳以上の人々を対象として、そのLMNA遺伝子が安定した構造であるかどうかを調べているところだ」とCollins博士は語った[USA Today誌の記事(3)からの引用]。

「老化の大いなる謎のいくつかを解決する上でLMNA遺伝子が役立つのではないか、というのが私たちの仮説だ。しかし老化のように複雑な生体過程の秘密を解き明かすには複数の遺伝子が必要となる可能性が非常に高い。おそらくは、LMNA遺伝子以外にもたくさんの遺伝子が老化に関係しており、それらは今後、次々と発見されていくことだろう」とCollins博士は言う。

■直接的な恩恵

HGPSの原因となる遺伝子突然変異が特定されたことで直接的に得られる恩恵の1つが、世界初のHGPS診断のための遺伝子検査の利用だ。この検査法は、既に利用できるようになっている。

この検査によって、従来よりも早い段階で、HGPSの症状を示している子供たちが本当にHGPSかどうかを確定、あるいは否定できるようになった。これまでのHGPS診断では身体的特徴が唯一の手がかりであったため、身体的な特徴が非常に微妙な場合、特に低年齢の子供たちが数多くHGPSと誤診されていた。常に死を覚悟しなければならない病気だと診断されると、家族が受ける衝撃は大きい。この新たな遺伝子検査によって、医師たちは、診断の精度についての確信を強めている。

早老症研究財団(Progeria Research Foundation、PRF)は、世界中の子供たちにHGPS診断用遺伝子検査キットを無料で提供している。PRFは、HGPS研究を振興し、HGPSに対する社会の認識を高めることに力を注いでいる団体だ。また、HGPSの発症に伴う感情面や医療面での影響への対応に迫られる家族に対しても数多くのサービスを提供している。

■理論的な新薬開発を期待

今回の突然変異遺伝子の特定によってもたらされる、より長期的な恩恵としては、HGPSの分子機構の解明に基づく根本的な治療法の開発、そして治癒方法すら想定できる可能性がある点だ。事実、この突然変異遺伝子についてのこれまでの解析結果やラミンAタンパク質の正常な代謝機序の解明をもとに、このラミンAタンパク質の代謝に影響を与えることが知られている既存の薬剤がHGPSの治療に役立つかどうかを調べる研究が既に始まっている。Collins博士は、研究室から臨床現場までの道のりは「迅速で決して平坦とは限らない」と警告する(2)ものの、HGPSの原因遺伝子の同定が、新薬開発の方向性を決める上で役立つことを明らかに期待している。

■HGPS患者の期待

「今、とても興奮しています。僕と同じ早老症の友達もきっと同じように感じているはずです。そして、次の段階、つまり治癒方法や治療法が開発されることを期待しています。」こう語るのは、現在米国内で生存しているHGPS 患者の中で最年長と報じられているJohn Tacket(15歳)だ(3)。彼は、ワシントンDCで開かれた記者会見でLMNA遺伝子の同定を発表した。[上記の発言は、この記者会見に関するUSA Todayの記事(3)による。]

Johnは、PRFのYouth Ambassadorの仕事をしている。多くのHGPSの子供たちと同様、Johnの知能も平均以上だと言われている。彼は、数学の達人で、ドラムの名手だと報じられている。米国ミシガン州ベイシティーの高校に通い、放課後は地元の商店で働き、現金の出納を任されている[PRFによるJohn Tacketのインタビューを参照]。

■PRFの戦いは続く

PRFのメディカルディレクターであるLeslie Gordon博士(M.D. & Ph.D.)の6歳の息子もHGPSに苦しんでいる。「この遺伝子を単離したことは、研究の始まりに過ぎません。私たちのゴールは、治療法を見つけ、できれば、大人になれずに一生を終えるこの子供たちの病気を治癒することなのです。PRFは、今後も、早老症[HGPS]に対する戦いで主導的な役割を果たし続けていきます。(2)」Gordon博士は、このように語った。

■HGPS遺伝子の発見が別の不可解な遺伝病の解明に役立つかもしれない

HGPSの原因遺伝子が発見されたことで、「ラミノパシー」(4)という不可解な遺伝病についても解明が進むかもしれない。ラミノパシーは、核ラミナのタンパク質をコードする遺伝子の突然変異によって引き起こされる一連の疾患の総称だ。

この疾患群の中では、LMNA遺伝子の突然変異を原因とするラミノパシーが特によく知られている。これまでに、同じLMNA遺伝子の異なる突然変異を原因とするラミノパシーが少なくとも6種類特定されており、HGPSは7種類めに特定された。

LMNA遺伝子が関連した疾患には、ある種の筋ジストロフィー、リポジストロフィー、ニューロパシー、心筋症などがあり、これらの疾患の遺伝子による遺伝パターンはさまざまだ。このようなさまざまなタイプの組織を冒す極めて多様な疾患は、ほとんど全ての体細胞でほぼ例外なく発現する遺伝子のうちの特定の1つの遺伝子が、さまざまに突然変異することによって生じている。しかし、どのようにしてそうなるのかは、明確に説明されていない。

■HGPSの徴候、診断と予後

HGPSは極めてまれな疾患で、発症率が400〜800万人に1人と推定されている。この疾患は、1886年に初めて報告されたが、それ以降、約100人の患者しか特定されていない。PRFによれば、現在、世界で生存が確認されているHGPSの子供たちは、わずか40人であり、HGPSの子を持つ親たちは、HGPSにはかかっていない。

通常、HGPS早老症の子供たちは、出生時段階では正常に見える。ところが、生後18ヶ月以内には成長速度が鈍化し、容貌が変化して、早期老化の徴候が見え始める。この病気にかかった子供たちは、4歳までに頭髪がなくなり、皮膚が老化し、鼻閉状態になる。また歯が生えるのが遅く、体脂肪が減る。また、関節のこわばり、股関節脱臼、全身性アテローム性動脈硬化症や心臓血管疾患になることが多い。

HGPSの子供たちの身長は、3フィート(約91 cm)を超えることが稀で、体重も通常は30〜35ポンド(約13.6〜15.9 kg)程度で、性成熟には至らない。平均寿命は13歳強で、ほとんどが心臓発作あるいは脳卒中で命を失う。この疾患の発症率に、性別や人種による差異は見られない。

突然変異遺伝子の同定によって開発された遺伝子検査が、現在ではPRFによって提供されるようになったが、この検査が導入される以前の初期診断は、患者の身体的外見に基づいてなされていた。このため、皮膚の変化や体重が増えなくなることがはっきりする生後1〜2年以内になることが通常だった。

■早期老化

「早老症は、明らかに早期老化と似た遺伝病の最も深刻な事例と考える人が多い。早老症の子供たちの老化速度は通常の5〜10倍と考えられている。」こう語るのは、ニューヨーク市スタッテンアイランドにあるニューヨーク州立発達障害基礎研究所の人類遺伝学科長のW. Ted Brown教授(M.D. & Ph.D.)だ(2)。Brown博士は、HGPS/早老症を専門とする臨床医の世界的な第一人者と広く認められており、Natureに掲載された論文の共著者の1人でもある。

HGPSは、単に「早老症(progeria)」(「老化の進行」という意味のギリシャ語に由来している)と呼ばれることもある。これまでに数種類の早老症候群(「早老性症候群(progeroid syndromes)」と総称されている)の特徴が明らかにされている(5)。HGPSもその1つで、このほかにウェルナー症候群コケーン症候群ロートムンド-トムソン症候群などがある。

■アノテーション付きゲノム配列、DNA技術、研究者、そして人の心

HGPS遺伝子同定の成功は、とても重要な次の4つの要因抜きには語れない。

(a)解読が完了したヒトゲノム配列を利用できたこと

(b)最先端の自動化DNA解析技術を利用できたこと

(c)世界の一流の研究者が協力して、極めて稀な疾患の研究に精力的に取り組んだこと

(d)HGPS/早老症にかかった子供たち、その両親や支援者による小規模な団体(PRF)の超人的な努力

■解読が完了し、アノテーションされたヒトゲノム配列の果たした重要な役割

解読が完了し、アノテーションされたヒトゲノム配列を利用できたことは非常に重要だった。遺伝子の探索を1番染色体のごく限られた領域に絞れたことで、その領域に存在することが既に知られている80種類の遺伝子の特徴を直ちに検討し、HGPSに関与する遺伝子として最も有力と思われる1つあるいは複数の遺伝子をすぐに同定できるようになったからだ。

その結果、80種類の既知の遺伝子のうちの1つが、すぐに候補遺伝子として浮かび上がった。それがLMNA遺伝子だったのだ。LMNA遺伝子は、上述したように、その突然変異と少なくとも6種類の遺伝病とに関連していることが既に明らかにされていたため、特に有力な候補遺伝子となった。

さらにLMNA遺伝子の塩基配列は既に解読されていたため、この遺伝子の突然変異が患者にあるかどうかを検出するため解析に必要な特定のDNA配列に特異的な試薬を直ちに設計できた。

そしてHGPS患者のLMNA遺伝子が突然変異しているという、研究者の推測は実際に正しかった。それはまさに、既存の遺伝子アノテーションによって正しく予測された結果だった。LMNA遺伝子の配列は既に解読されていたため、疾患の原因となるLMNA遺伝子の突然変異を特定する作業は、大幅にスピードアップされた。

  ヒトゲノム・プロジェクトによって生み出されたこのようなツールがなければ、[HGPS]早老症の原因遺伝子を発見することは不可能だったと考えられる。それらの多くは、原因遺伝子を特定しようとする研究者にとって特に困難な課題だったからだ。この疾患の場合、1家族に2人以上の患者がいるケースがないが、一般に遺伝学の研究者らは、原因遺伝子を見つけるために、そのような家族を手がかりとする。今回のケースは、まるで手がかりのない、探偵小説のようなものだった」とCollins博士は強調した(2)。

■大きな役割を果たしたアプライドバイオシステムズのDNA解析技術

研究の初期段階で原因遺伝子の探索領域を80個の遺伝子に絞り込めたのも、患者から得られたDNAのLMNA遺伝子の一塩基の突然変異を特定できたのも、すべて自動化された遺伝子解析技術のおかげだった。

HGPS遺伝子が1番染色体上の特定の80遺伝子の小領域内に位置する可能性が高いことを明らかにする上で、アプライドバイオシステムズのABI PRISM®3100 Genetic Analyzer、ABI PRISM® GeneScan® 解析ソフトウェアやABI PRISM® Genotyper® ソフトウェアを使ったジェノタイピングは、重要な役割を果たした。

そして、この領域内においてLMNA遺伝子が候補遺伝子である可能性が高いと判定された後、同じくアプライドバイオシステムズのABI PRISM® 3700 DNA アナライザやABI PRISM® BigDye® ターミネーター試薬を用いてLMNA遺伝子のDNA配列解読が行われた。その結果、20人の患者のうち18人においてLMNA遺伝子中の1つの塩基が突然変異しており、これが疾患の原因であることが特定された。[注:残りの2人の子供の場合には、同じコドンに別の突然変異があった。]

■多くの研究者の協力が極めて重要だった

今回の突然変異遺伝子同定では、熱心な研究者たちの生産性の高い協力作業が極めて重要な役割を果たした。Collins、Gordon、Brown博士のほか、さまざまな研究機関や研究分野の14人の研究者が、この画期的な研究に参加した。その1人であるMichael Boehnke博士(ミシガン大学教授−生物統計学専攻)は、特に幅広い研究分野の研究者間の協力と新しい遺伝学研究用ツールの重要性について、次のように語っている。

「[HGPS]早老症の基盤である変異型ラミンAを迅速に特定できたことは、ヒトゲノム配列解読とアノテーションによって得られた新しいツール、そして臨床遺伝学、分子遺伝学、統計遺伝学といった学際的で強力な研究チームの重要性を示している。(6)」

■極めて重要な活気と資金をサポートしたPRF

今回の研究を成功に導いた真の立役者は早老症研究財団(PRF)だ。まずPRFは、当時、誰も注目していなかったHGPS/早老症という疾患に米国議会と米国立衛生研究所の目を向けさせ、次いでPRF遺伝学コンソーシアム(PRF Genetics Consortium)を設立した。このコンソーシアムには、熱心なHGPS/早老症の研究者20人が参加している。

またHGPS遺伝子の同定作業にとって極めて重要だったのが、HGPS患者やその家族の細胞や組織を集めたバンクを設立し、科学研究での材料として使えるようにしたPRFの先見性だった。HGPS/早老症は発症率が極めて低いため、これが特に重要なポイントとなった。

■PRFの誕生

PRFが設立されたのは、Leslie Gordon博士とその夫であるScott Berns博士の長男Sam BernsがHGPSと診断されてからまもなくのことだった。

HGPSと診断された1998年の夏、Samはちょうど1歳と10ヶ月だった。その時、Gordon博士はブラウン大学医学系大学院でのM.D.とPh.D.の過程を終え、ハズブロ小児病院(ロードアイランド病院小児科)で研修医として勤務していた。Berns博士は、同病院の小児外傷科のメディカルディレクターだった。

その2人の間に生まれた、かわいい男の赤ちゃんが、生まれた時は全く正常に見えたのに、HGPSにかかっているという衝撃的な宣告を受けてしまった。Gordon博士もBerns博士も全く何もできなかった。2人が医師になるために受けてきた数々の研修は何の役にも立たなかったのだ。

この衝撃的な診断の後、ほぼまもなく、Gordon博士とBerns博士は、そのエネルギーと才能を息子やその他のHGPS患者を助ける活動に振り向け始めた。Gordon博士は研究室に戻り、HGPSに関連した細胞生物学研究を始めた。そして1999年3月、Gordon博士とBerns博士はPRFを設立。PRFは、医学研究のサポートと早老症に関する教育と啓蒙活動の振興を目的とした。

PRFは、過去4年間に、資金集めを行い、社会の認知度を高め、学会を後援し、PRF研究者によるPRF遺伝学コンソーシアムを組織し、研究活動を推進してきた。それが今回のHGPS遺伝子同定につながったのだった。

現在、Gordon博士はPRFのメディカルディレクターを務め、PRFの研究総括責任者としてPRF細胞・組織バンク(PRF Cell and Tissue Bank)とPRF医療・研究データベース(PRF Medical and Research Database)を監督している。この2つのプログラムは、早老症の治療法や治癒方法の探索において非常に重要な役割を果たすと考えられている。またGordon博士は、新たに開設されたPRF診断検査プログラム(PRF Diagnostic Testing Program)も監督している。このプログラムは、HGPS遺伝子の同定によって構築された。Gordon博士は、PRFの遺伝学コンソーシアムの専務理事も務めている。

Gordon博士は、PRFでの尽力に加えて、タフツ大学医学系大学院(米国ボストン)の助教授として、解剖学・細胞生物学科でのHGPS研究にフルタイムで参加している。またハズブロ小児病院の小児科講師でもある。

Berns博士はPRFの評議会のメンバーであり、PRFの教育・市民意識委員会(Education and Public Awareness Committee)の委員長である。このほかにもBerns博士はGenetic Allianceの評議会のメンバーであり、March of DimesのChapter Program担当副会長にも就任している。彼は小児救急医で、ブラウン大学医学系大学院の非常勤准教授(小児科)でもある。上述の通り、彼は、7年間、ハズブロ小児病院の小児外傷科のメディカルディレクターを務めている。

■患者の家族とPRFが支えた科学研究

Leslie Gordon博士とScott Berns博士の尽力は、HGPS研究に取り組んでいる研究者にとっての励みとなった。People Magazineの記事(7)によれば、Collins博士は、両博士の息子Samの写真を自宅のコンピューターに貼りつけている。「Gordon博士とBerns博士がいなかったら、私の研究室でHGPSの研究は決して行われなかっただろう」とCollins博士は言う。

「PRFの真摯な取り組みと協力は、HGPS遺伝子の探索において極めて重要な役割を果たした。PRFは、この遺伝子を発見する必要性が切迫していることを生物医学の研究者たちに知らしめたのだ」とCollins博士は続ける(7)。

■見た目は問題のなさそうな突然変異によって極めて深刻な病気が起こる過程

やや意外なことだが、Natureに掲載された論文に記述されたHGPSの原因となる最も一般的な突然変異は、実は「サイレント」突然変異なのだ。その実態は、コドンに含まれる1つの塩基の置換で、このコドンによって定められたアミノ酸に変化は起こらず、よって、この遺伝子によってコードされたタンパク質には何らの変化も予想されない。当然のことながら、HGPSのような極めて深刻な症候群が起こるなんて決して予想できないのだ。

Collins博士の研究室に所属するポスドク・フェローで、Natureに掲載された論文(2)の筆頭著者でもあるNHGRIのMaria Eriksson(2)(Ph. D.)によれば、見た目は問題のない塩基の変異が、これほど深刻な疾患の原因となる可能性が示された当初、今回の研究に参加した研究者たちはすぐに信じることができなかったと言う。

しかし最終的には、この塩基の変異によって実際に「潜在的なスプライス部位」[リンクaリンクb]が活性化する可能性が高い、と研究チームでは判断するに至った。このスプライス部位が活性化すると、ラミンAタンパク質をコードするメッセンジャーRNAに通常とは異なるスプライシングが起こり、150塩基の配列が欠失して、通常より短いタンパク質が産生されると考えられるのだ。

この通常よりも短いタンパク質が、何らかの過程を経て、核膜の正常な機能に干渉することにより、HGPSを引き起こすのではないか、と研究チームでは考えている。ラミンAは、核膜で多タンパク質複合体を構成していることが知られており、通常よりも短いラミンAが、この複合体の機能に干渉し、あるいは機能を阻害する可能性があり、これがHGPSの原因となる可能性があることも研究チームによって指摘されている。

■核膜の弱点と物理的ストレスに対する組織特異的な脆弱性

Collins博士たちの論文では、HGPS患者の核膜が実際に変異していることが報告されている。そしてHGPSにおける最も重症の病理現象の一部については、相当な物理的ストレスを受けた臓器や組織の損傷が蓄積し、ラミンAの変異が原因となっている可能性のある核膜の不安定性に対する許容度が低くなっていることが、少なくとも原因の1つだとする仮説が示されている。このように損傷を受けた臓器や組織には、HGPS患者の場合に一般的に激しい症状が見られる心臓血管系や筋骨格系が含まれると考えられる。

■組織特異性の理由についての別の考え方

LMNA遺伝子の突然変異によって、HGPSの場合のように病気の影響が組織特異的に現われる過程を説明するための考え方は、ほかにもある。

核膜は、細胞質と細胞核の間での転写因子などの大型分子の双方向的な移動を調節することが知られている。LMNA遺伝子に突然変異があると、核膜と特定の転写因子との相互作用が変異し、その結果、各組織がそれぞれ独自の機能に応じて異なる転写因子と強く関わるために、病気の影響が組織特異的に現われると推測することもできる。

さらに核膜は、クロマチンのアンカーポイントを定めることによって、より高次の核構造を決定することが知られている。LMNA遺伝子の突然変異は、特定のタイプの組織を構成する細胞の特定の核構造に影響を与えるため、病気の影響が組織特異的に現われるとも考えられる。

研究をさらに進めて、上記の仮説を始め、数々の仮説を検証し、HGPS患者におけるラミンAタンパク質に関連した病理現象の正確な分子的基盤を明らかにする必要がある。

■父の精子細胞によって突然変異が遺伝する可能性

Collins博士たちは、最終的には、検査を実施できたサンプルの全ての場合において、研究対象となったHGPS患者の親の体細胞に疾患の原因となる突然変異が見られないことを確認した。さらにCollins博士たちは、LMNA遺伝子の突然変異がヘテロ接合状態でHGPSの発症につながることも実証した。HGPSにかかった子供たちの場合、LMNA遺伝子の片方が正常で、もう片方が突然変異していたのだ。

この結果は、HGPSの原因となる突然変異が「優性」(すなわち2つの対立遺伝子のうち、1つが突然変異すれば、病気になること)であることを示している。HGPSにかかった子供たちのLMNA遺伝子の片方が正常で、もう片方が突然変異していたのに対して、親の体細胞に突然変異が見られないという事実からは、この突然変異が一方の親の生殖細胞(母親の卵子あるいは父親の精子)の段階で発生している可能性が示唆されている。こう考えれば、親がHGPSにかかっておらず、体細胞に突然変異が見られないにもかかわらず、子供にHGPSの原因となる優性の突然変異が生じた理由が説明できる。

Collins博士たちの論文では、それまでに集められた証拠によれば、父親の精子細胞が突然変異の原因であることが示唆されている、と報告されている。父親の精子細胞のほとんどは全く正常と考えられる一方で、HGPSを生み出すLMNA遺伝子の変異を引き起こす原因となる事象を経た精子細胞が卵子と受精すると、HGPSの子供に成長する胚が発生すると考えられるのだ。

これまでに発表された他の研究者による研究では、親の年齢が平均を超えているとHGPSとの間に関連性がある可能性が示唆されていたが、この点に関する厳密な実証は行われていない。

■研究機関

Nature(1)に発表された研究は、米国立ヒトゲノム研究所、米国立アレルギー感染症研究所、ニューヨーク州立発達障害基礎研究所、タフツ大学医学系大学院、ミシガン大学とカリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究者によって行われた。17人の共著者のうち6人はPRF遺伝学コンソーシアムのメンバーである。

■関連した研究

このほかにも、最近、HGPSの解明と関わる研究論文が、いくつか発表されている。第1は、フランスでの研究で、Collins博士の研究グループによって特定された「サイレント」突然変異と同じ突然変異を原因とするタンパク質の切断が2人のHGPS患者において確認された(8)。第2の研究では、ラミンAをコードするヒト遺伝子と相同的なマウス遺伝子(Lmna)の突然変異がホモ接合になっているマウスにおいて人間のHGPS患者に見られる多くの異常が生じたことが明らかにされた(9)。そして第3の研究では、LMNA遺伝子に見られる別のいくつかの突然変異とHGPSとの関連性が明らかにされている(10)。

■早老症遺伝子の同定を特集したテレビ番組が米国ABC系列で放映された

最近、米国ABCテレビで、早老症とHGPS遺伝子の同定について説明した番組が放映された(11)。この番組では、Sam Bernsとその両親Leslie Gordon博士とScott Berns博士の話が中心となっていた。早老症についてのマスコミ報道に関する詳しい情報は、早老症研究財団のホームページで公開されている。

■新たな希望

HGPSは、これまで100年を超える年月にわたって、極めて深刻な謎の病気として、わずかな数の不運な家族に悲惨な体験を強いてきた。今、HGPS患者を抱える家族に新たな希望が生まれている。また稀な疾患であるHGPSを解明するための研究が進むことによって、人間の正常な老化に伴う一般的な問題を解決する手がかりが得られ、細胞における中心的な生物学的機能も一部解明できるようになるという希望も生まれているのだ。

写真2
米国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)の所長であり、先ごろ終了した「ヒトゲノム・プロジェクト」という公的プロジェクトの責任者でもあったDr. Francis Collinsは、今回の論文のラストオーサーであり、プレスカンファレンスにおいてHGPS遺伝子の同定について説明した。左から右へ座っている人は各々、早老症研究財団のYouth AmbassadorのJohn Tacket (15才)、同財団のmedical director でHGPSの子を持つDr. Leslie Gordon、HGPSの研究をリードしたDr. W. Ted Brown。Dr.Gordon とDr.Brownは今回の論文の共著者でもある。
(Photo by Maggie Bartlett, NHGRI).

写真3
HGPS遺伝子の同定に関するプレスカンファレンスで話す、早老症研究財団のYouth AmbassadorのJohn Tacket (15才)。彼は、アメリカで現在最も長命のハッチンソン・ギルフォード早老症の患者と考えられている。
(Photo by Maggie Bartlett, NHGRI).

写真4
John Tacketのスピーチを聴く、Dr. Francis Collins。
(Photo by Maggie Bartlett, NHGRI).

写真5
早老症研究財団のmedical directorを務める、Dr. Leslie Gordonは、HGPSの子を持つ母でもある。彼女もプレスカンファレンスでHGPS遺伝子の同定について話した。
(Photo by Maggie Bartlett, NHGRI).

写真6
プレスカンファレンスでHGPS遺伝子の講演をする、Dr. W. Ted Brown 。
(Photo by Maggie Bartlett, NHGRI).

写真7
Dr. Leslie Gordon and Dr. Scott Berns と彼らの6才の息子、Sam。SamはHGPSである。
(Photo provided by Dr. Leslie Gordon).

写真8
Sam Berns(6才)
(Photo provided by Dr. Leslie Gordon).

References
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