ヒトの長寿に関わる遺伝子座

100歳以上の長寿者を対象としたゲノム解析から、ヒトの長寿に関わる遺伝子座が予測された
100歳程度の長寿者およびその兄弟姉妹を対象としたゲノムワイドな連鎖解析の結果、第4染色体上に長寿に関わる遺伝子座が存在する可能性が示された。このゲノム調査の結果は、Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)に発表された。Science誌のNews of the Week欄 によれば、このゲノム調査で発見された遺伝子座がヒトの長寿に関わる「マスター遺伝子」である可能性があり、このことは注目に値する事実であると述べられている。
ヒトの長寿にはいくつもの遺伝子が少しずつ影響する可能性が高いと考えてきた多くの研究者の予想に反し、この新しい研究結果は調査検討すべき余地を残しているものの、単独あるいはほんのいくつかの遺伝子が実際にヒトの長寿を決定するのに重要な役割を果たしている可能性を示唆している。
Science誌のNews of the Week欄では、この研究調査を率いた一人であるThomas Perls医学博士の言葉を引用し、この遺伝子を持つ人は持たない人よりも平均して20年程度長生きするため、この遺伝子は「遺伝的ブースター・ロケット(補助推進ロケット)」のような役割を果たす可能性があると述べている。
Perls博士は、ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターとハーバード大学医学部によるニュー・イングランド長寿者研究プロジェクト(New England Centenarian Study) の責任者である。そして彼はベス・イスラエル・ディーコネス医療センターの老年医学研究者であり、ハーバード大学医学部助教授を兼任する。その他の主な研究者には、ボストン小児病院遺伝学部長、ハーバード大学医学部小児遺伝学教授およびハワード・ヒューズ医学研究所(HHMI)の研究者を兼任するLouis Kunkel博士と彼の研究室の研究員であるAnnibale Puca医学博士らがいる。
彼らは、最近、遺伝子に基づく長寿の仕組みを解明し、その仕組みを加齢に伴う疾患の治療に活用するという目的で Centagenetix, Inc.という会社を設立した。
彼ら以外にも、先に述べた研究機関、ラトガーズ大学、ホワイトヘッド生物医学研究所ゲノムリサーチセンターから長寿者を対象としたゲノム調査研究に参加した多くの研究者がいる。
[ "Can the Kahn Siblings Help Scientists Bottle the Secret to a Long LifeHarvard Team Makes Progress in the Hunt for a Gene That Controls Longevity," by Laura Johannes, The Wall Street Journal, page 1, August 27, 2001参照]
[ "Only a Matter of Time," The Economist, page 66, September 1, 2001.参照]

■詳細な情報
Perls博士は、この新しい調査研究に取り組むに至った動機として、彼が長年にわたって長寿者と接し、長寿者に関心を抱いた事を挙げる。Perls博士は、ベス・イスラエル・ディーコネス医療センター老年医学部門の専門医であると同時に、ニュー・イングランド長寿者研究プロジェクト(NECS)の責任者でもある。NECSは、ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターとハーバード大学医学部の協力のもと、ボストン近郊8区域の100歳以上を対象にした大規模な研究として1994年に調査を開始した。今日、NECSは長寿者を対象とした遺伝学的調査研究としては世界最大であり、長寿者とその兄弟姉妹あるいは子供たち、および国内外の対照被験者を含め、約1,000人が被験者として登録している。
多くの長寿者と接するうちに、Perls博士はその兄弟姉妹もほとんど同じくらいの年齢であり、なかにはそろって信じられないほど長生きする家族があることに気づいた。そしてCNN.com/Career news article は、online上でPerls博士が接したある長寿家族について紹介した(1)。
この記事のなかで、「ある地方紙に掲載された写真のなかで、108歳の誕生日を迎えた男性が103歳の妹の見守るなか、バースデーケーキのろうそくを吹き消していました。我々は彼らに会いに出かけました。彼らの話では、97歳になる妹もいるとのことでした。2年前までは、他にも長生きした身内が二人いたそうです。つまり7人の兄弟姉妹のうち5人が長生きしたのです。我々は同じような家族に7件出会いました」というPerls博士の話を引用した。
1998年にPerls博士らは、長寿者の兄弟姉妹が91歳まで生存する確率は一般と比べて4倍高いという報告を発表した(2)。別の調査分析結果では、最近の長寿者は、少なくとも65歳まで生存した集団のなかの平均的な人よりも約20年長生きしているという結果を報告した(3)。Perls博士らによる別の調査では、長寿者の多くは老後も非常に良好な健康状態にあると報告した(4)。このような結果から、長寿者とその兄弟姉妹は老化という点で平均的な人と比べて非常に有利な遺伝条件をもち、長寿遺伝子を同定する試みにおいて非常に注目すべきグループである可能性を示唆した。
最近の研究のなかでPerls博士らは、非常に長命の兄弟姉妹137組についてゲノムワイドな連鎖解析を行い、この可能性について調査を試みた。各組には、98歳以上の者が1名、その弟であれば91歳以上、妹であれば95歳以上を含むものとした。調査にはヨーロッパ系の子孫を中心に308名が参加し、その年齢範囲は91歳から109歳であった。
著者らは、ヒトの長寿遺伝子を発見するためにゲノムワイドな調査を試みたという点で、これが初めての調査研究であることに注目した。ヒトの長寿に関わる遺伝子の同定を試みた過去の研究は、母集団の中から、特別に選び出した候補遺伝子に着目した相関解析であった。過去の調査研究では、ヒトの長寿に多大な影響を与える遺伝子座は同定されていない。

彼らはABI PRISM® Linkage Mapping Setの蛍光マイクロサテライトマーカーを用い、137組の兄弟姉妹から得たDNAについてゲノムワイドな連鎖解析を行った。PCR増幅反応はGeneAmp® PCR System 9700 サーマルサイクラーで行い、反応産物はABI PRISM® 377 DNA Sequencerで分離した。サイズの決定および遺伝子型の解析はABI PRISM® GeneScan® Analysis SoftwareおよびABI PRISM® Gebotyper® Softwareを用いて行った。
この研究で、彼らは統計学的遺伝子解析法を採用した。この方法は、兄弟姉妹が染色体領域に共有する複数の対立遺伝子を検索する。この方法を用いて、研究者らは第4染色体領域のD4S1571とD4S406マーカーの間に連鎖が起きている可能性が高いとする証拠を示した(最大LOD値2.67)。そして最大値を示す付近の20cMの領域で、3センチモルガン(cM)ごとに平均1マーカーでファインマッピングを行った。このファインマッピングでは、D4S1564マーカー付近でLOD値が上昇し最大値3.65を示した。
この結果は、第4染色体上の同定された領域内に、長寿をもたらす能力に実質的な影響を与える遺伝子(群)が存在することを示唆していた。この遺伝子(群)の機能については不明である。
研究者らは、遺伝的因子が長寿形質の受け継ぎに影響を与える仕組みについて、多くの仮説が考えられていることに注目した。ある仮説によれば、アルツハイマー病、糖尿病、ガン、心臓病などといった加齢に伴う疾患の発病に影響を与える遺伝子多型を比較的少なく受け継いでいると考えている。また、別の仮説では、感染から逃れることができるような、より有効な免疫系を備えた遺伝子多型を受け継いでいる可能性があると考えられている。さらに、第3の仮説では、老化を遅くする能力を備えた遺伝子多型を受け継いでおり、そのような場合には加齢に伴う疾患の発病が遅れる可能性があると考えている。
第4染色体上に同定された領域において、長寿に関わる遺伝子(群)とその性質を特定しようとする今後の試みでは、このような遺伝子が長寿に影響するしくみを突き止めなければならない。また、老化の過程で重要な細胞内経路を解明する情報も提供するであろう。そして、今後の研究結果は、研究者が先に示した仮説の正当性を評価するという点でも大いに役立つであろう。
■Additional References
1. Anderson, P., "Thomas Perls: Longevity Researcher'The Older You Get, the Healthier You've Been,'" CNN.com/Career (August 27, 2001).
2. Perls, T. et al., The Lancet 351: 1560 (May 23, 1998). [Medline abstract]
3. Bell, F. et al., Cohort Life Tables (U.S. Dept. of Health and Human Services, Social Security Administration, Washington, DC) (1997).
4. Hitt. R. et al., The Lancet 354: 652 (August 21, 1999). [Medline abstract]
Trademarks
AB (Design) and Applera are trademarks, and ABI PRISM, Applied Biosystems,
BioBeat, GeneAmp, GeneScan, and Genotyper are registered trademarks, of Applera
Corporation or its subsidiaries in the US and certain other countries.
The PCR process is covered by patents owned by Roche Molecular
Systems, Inc., and F. Hoffmann-LaRoche, Ltd.
